さらに羊革同士を同じ倍率で比べてみると、その差はもっとよくわかります。インド産は比較的毛穴が大きく間隔も広いのに対し、エチオピア産は小さな毛穴が細かく、密に分布しています。同じ羊革でも、銀面のきめ細かさには大きな違いがあります。
つまり、もともとなめらかな羊革の中でも、そのきめ細かさをさらに一段高めているのが、エチオピアシープスキンなのです。
一般にはあまり聞きなじみのない「エチオピア シープスキン」。でも実は、世界最高級の羊革のひとつとして評価されている素材です。エチオピア高地で育つヘアシープの革は、やわらかく、軽く、それでいて丈夫。通常は両立しにくい特徴をあわせ持っており、英国王室から、タイガー・ウッズまで、本物を知る世界のセレブリティたちに選ばれ続けています。
キャサリン皇太子妃をはじめ、名だたる著名人に選ばれてきたエチオピアシープスキンの手袋
タイガーウッズ選手はじめ世界のアスリートたちのこだわりを支える最高峰の素材としても知られる
エチオピアシープスキンを使った高級ヘッドフォン 「ULTRASONE(54万円)」
では、なぜエチオピアシープスキンだけが、そのような類まれな特徴をもつのでしょうか。その理由をひとつずつ紐解いていきましょう。
エチオピアシープスキンを初めて手にした人が、まず驚くのが、その感触。てのひらに吸い付くようにしっとりとやわらかく、きめ細やか。その秘密は、キメをつくる毛穴の大きさや密度、配列にあります。
【画像】デジタル顕微鏡による4種の動物の銀面を比較(47×)
こちらの写真は、レザーとしておなじみの4種類の動物の革を、同じ倍率で比較したものです。バッファローはもっとも毛穴が大きく、表面の凹凸も粗い。牛は丸い毛穴が密集していて、粒状の凹凸が目立ちます。ヤギは毛穴が筋状に並び、表面に起伏があります。これに対して羊は、毛穴や凹凸が細かく均一で、大きな起伏も少ないため、表面が特になめらかで、きめも細かくなるのです。
実体顕微鏡によるエチオピア産/インド産シープスキンの銀面比較(左)エチオピア産シープスキン(右)インド産シープスキン
さらに羊革同士を同じ倍率で比べてみると、その差はもっとよくわかります。インド産は比較的毛穴が大きく間隔も広いのに対し、エチオピア産は小さな毛穴が細かく、密に分布しています。同じ羊革でも、銀面のきめ細かさには大きな違いがあります。
つまり、もともとなめらかな羊革の中でも、そのきめ細かさをさらに一段高めているのが、エチオピアシープスキンなのです。
これほど繊細な手触りなのに、驚くほど丈夫。薄く漉いても強度を失いにくい、その秘密は革の「中身」にあります。
革の断面構造。強度を支えるのは、太いコラーゲン繊維が絡み合う「網状層」
革の中を拡大してみると、細かな繊維が何層にも重なっています。表面に近い「乳頭層」は細い繊維が中心なのに対し、その下にある「網状層」では、太いコラーゲン繊維の束が立体的に、そして密に絡み合っています。この網状層が、革の強さを支える重要な部分です。
エチオピア高原のシープスキンの大きな特徴に、この強さを担う網状層が、薄い革の中にもしっかり残っていることがあげられます。ほかの産地の羊革では、薄くすると網状層が少なくなりやすいのに対し、エチオピア産は、薄くしても強さを支える繊維の骨格が残りやすい。つまり、表面が特別なだけでなく、革の中身そのものもまったく違うのです。
その背景には、エチオピア固有のヘアシープがもともと持つ性質に加え、乾燥した高地の環境に長く適応してきたことも関係していると考えられています。
| 0.4mm比較 | エチオピア | 南アフリカ | インドネシア |
| 網状層の割合 | 約40% | 約32% | 0% |
| 引張強度 | 28 MPa | 13 MPa | 11 MPa |
実際、0.4mmまで薄くした革を比較した研究では、エチオピア産は厚みの約40%を網状層が占めたのに対し、南アフリカ産では約32%、インドネシア産ではほぼ0%でした。その違いは強度にダイレクトに表れます。同じ0.4mmの革で比較すると、エチオピア産の引張強度は南アフリカ産の約2.2倍、インドネシア産の約2.5〜2.8倍という結果が出ています。
つまり、エチオピアシープスキンは、薄くしても、強さを支える繊維構造がしっかり残る革なのです。だからこそ、繊細な手触りややわらかさを保ちながら、高い強度も両立できる。
「薄く、やわらかく、しかも強い」。
一見相反するこの3つを、同時に叶えられることが、エチオピアシープスキンの大きな特長です。
andu ametのバッグを初めて手にした多くのお客様が、「こんなに軽いバッグははじめて!」と驚かれます。その理由は、「強さ」と密接な関係が…!?
革のバッグは魅力的だけど重いのが悩み、と考えている方は少なくないでしょう。
本革バッグの軽さを左右する大きな要素のひとつが、革の厚みです。革は薄くするほど軽くなりますが、薄くしすぎると強度が落ち、破れや伸び、型崩れにつながります。そのため一般的なレザーバッグでは、必要な厚みを残しながら、金具を減らしたり、サイズを小さくしたりして軽量化することになります。
エチオピアシープスキンの強みは、薄くしても強さを保ちやすいこと。だから、バッグの容量やデザインを犠牲にせず、素材そのものを軽くできます。どのくらい違うのか、厚さによる重量の変化を見てみましょう。
たとえば0.7mmから0.4mmへ、わずか0.3mm薄くするだけで、1㎡あたりの重量は約160g減ります。の差が完成品の重量に大きく効いてきます。
エチオピアシープスキンが特別なのは、ここです。前述したように、薄くしても強さを支える繊維構造が残りやすいため、ほかの革では強度との両立が難しくなる薄さまで仕上げることができます。加工条件によっては、約0.35mmまで薄くしても強度を保ち続けられるという研究結果がでています。
まとめると、エチオピアシープスキンは、強度を下げたり、サイズを小さくしたりせずとも、「革そのもの」を軽くできる素材。たっぷりと本革を使い、レザーバッグらしい存在感や容量を保ちながら、それでも驚くほど軽く仕上げることができるのです。
最高級の羊革「エチオピアシープスキン」を贅沢に使っているからこそ、革の個性を「隠す」のではなく「活かす」仕上げを採用。使い込んだときの美しさにもこだわります。
顔料仕上げによる経年変化
レザーをなめしたあとの、表面を仕上げる方法には、大きく異なる二つの考え方があります。
ひとつは、ペンキのような不透明な皮膜で表面を覆い、色や質感を均一に整える「顔料仕上げ」。傷や色むらをしっかりカバーし、耐久性や均一性に優れる一方、革本来のきめや毛穴、やわらかな手触りは感じにくくなります。また、長く使ううちに、表面の摩耗やひび割れ、剥離といった変化が現れることもあります。
もうひとつは、水彩絵の具のような透明感あふれる仕上がりが特徴の「染料仕上げ」。andu ametでは最高級エチオピアシープスキンの魅力を存分に味わっていただくため、こちらを採用しています。
革本来の表情を残す、素上げに近いナチュラルな仕上がりとなるぶん、羊が生きていたときについた小さな傷や虫刺されの痕、自然な皺、色の濃淡も、そのまま見えることがあります。
でも、わたしたちはそれらをすべて「欠点」とは考えていません。一枚一枚違う表情こそ、天然皮革の魅力です。きめの細かさ、やわらかさ、強度など、素材そのものの品質を見極めたうえで、あえて隠さず、その革が生きてきた痕跡まで楽しんでいただきたいと考えています。
そして、この仕上げの本当の魅力は、使い始めてから。手の油分や摩擦、光や空気に触れることで艶が増し、色や質感にもその人ならではの変化が生まれます。新品の美しさだけでなく、5年後、10年後の美しさまで考える。傷も皺も、色の変化も、その人だけの一枚へ育っていく過程として楽しんでいただく。それが、andu ametがナチュラルな仕上げにこだわる理由です。
新品時と約10年使用したCocoon。同じ革でも、使い方や時間によって艶や色の深まり方は一つひとつ異なります。
ここまで、エチオピアシープスキンの魅力をご紹介してきました。けれど、この革の魅力を数字や写真だけで伝えるには限界があります。
andu ametのコンセプトストアや全国各地のポップアップストアで、ぜひ製品を直接手に取ってみてください。持ち上げた瞬間の軽さ、指先に伝わるしっとりとしたなめらかさ、革一枚一枚の表情まで、ご自身の感覚で確かめていただきたいと思っています。
なかなか店頭まで足を運べない方には、ご自宅で体験いただける方法もご用意しています。レディースレザージャケット「Ebreeze」の試着便では、実際に羽織って軽さやしなやかさを。無料のレザーサンプルでは、エチオピアシープスキンそのものの質感をじっくりお試しいただけます。
出典
Paula Rowan
在エチオピア日本国大使館「産業別エチオピア経済事情調査報告書」
Nature scientific reports
Rediate Tsegaye, Addis Ababa University (2014)
JICA / FASID, Ethiopia Industrial Promotion Project (Export Promotion) (Phase 1): Final Report, 2020
Ethiopian Highland Leather (ELIA) - Thin and Light Yet, Strong and Durable
Leather Working Group - Aniline / Pigmented leather definitions