継がれゆくもの

エチオピアの工房で、バックパック「Cocoon」などの生産を担当しているアンディ。

彼がandu ametの一員となったのは、今から約5年前の2012年。私もまだ会社を設立したばかり。彼もまだ、縫製も裁断も全くの素人だった。

皮革工芸を教える職業訓練校の卒業生だったのだが、その訓練のコースはたった2週間。当然ながら、そんな短期間では技術も心得も身につけることはできない。でも深刻な失業率の高さへの対策として、「専門学校卒」の修了書を持った若者を増やすためだけに、政府は一時期こういうコースがあちこちに作っていた。

彼は、割と初めからものづくりやデザインへの興味が強かった。日本から写真入りの技術の本などを買っていくと、食い入るように眺め、うれしそうに真似して作ったりしていた。同時期に入社した他のスタッフと比べても、飲み込みが早く、1年もしないうちにミシンを使ってみたいと言い出した。

羊の革は、牛革やヤギ革など他の素材と比べて薄くて柔らかい分、伸びたり傷ついたりもしやすく、極めて難易度の高い素材と言われている。ただ、機械的にまっすぐに縫おうとすると、いつの間にか歪んでしまうし、ほんの1ミリ程度の歪みも目立ってしまう。革を手で触れ、皮目や厚みなどを確認しながら、少しずつ調整をしなければならない。日本の革職人でも、羊革だけはうまく扱えないという人も多いのだそうだ。アンディも、かなり長いあいだ苦戦をしていた。

そんな彼の特訓に付き合ったのは、先輩で親友のトフィックだった。かつて私自身、トフィックへの指導に散々手を焼いたことは過去のコラムでも何度か書いたが、そんな彼もアンディへの指導を通して、人に指導することの難しさややりがいを感じてくれたのではないかと思う。

あれから4年。今ではアンディも新人たちに、技術を教える立場になった。

自分の知識や技術を隠したがる人も多いエチオピア(現地の友人曰く、自分しかできない方が、自分の価値が高くなるという考え方が文化的にあるのだそう)だが、彼は自分がトフィックや周囲の人たちのおかげでここまで成長できたことを感謝していて、以前紹介した元門番のアイヤノ始め、後輩たちの面倒をよく見ている。

その後輩たちが、また新たに入ってくる新人たちへ、その新人がまたさらに新人へ、それぞれが教わったことをどんどん伝えていってくれたら…そんなに簡単にはいかないことも分かっているけれど、それでもいつの間にか頼もしくなっているアンディの背中を見ながら、明るい未来の光が見えた気がした。