ナイルを渡る風と光に出会う旅

人気のアップサイクルトートMake My Dayから新色Nile Breezeが発売されます。きらめく水面、吹きぬける風をイメージしたさわやかなブルーは、andu ametの中でも、ひときわ鮮やかなカラーリングです。

そんなNile Breeze(ナイルの風)にちなんで、ナイル川の源流を訪ねた旅のお話しを。ありきたりのブルーとは一味違うandu ametならではの特別なブルーが生まれた場所を巡ってみたいと思います。

ナイル川の源流は2つ。ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれたヴィクトリア湖を源流とするホワイト・ナイルとエチオピアのタナ湖を源流とするブルーナイル。わたしが訪ねたのは、後者のブルーナイルでした。

白と青の違いは、川底の堆積物の色。ホワイト・ナイルは、川底の砂が流れに巻き上げられて白濁し、ブルーナイルは、重たい黒土が川底に沈殿するため透明度が高くブルーに見えることからその名がつきました。ふたつの川は、スーダンのハルツームで合流し、1本の太い川となってエジプトへ。古代エジプトに文明が生まれたのは、急流に削り取られたエチオピアの黒土が、河口に流れついてできた肥沃なナイルデルタのおかげとも言われています。

さて、ブルーナイルの源流があるタナ湖は、バハルダールというエチオピア北部の街にあります。バハルダールとはエチオピアの言葉で「海岸」という意味。その名の通りタナ湖は、日本一大きな琵琶湖の4.5倍もあるまるで海のように広い湖です。海を渡る潮風は、わずかに湿気を帯びて重たく感じることもありますが、淡水を渡るナイルの風は、軽く涼やか。とりわけ朝、湖から吹いてくる風は、凛とした冷たさがあり、清々しい気持ちで1日をスタートすることができます。


早朝、ホテルのバルコニーから目の前のタナ湖を見下ろすと一艘のパピルス舟が湖面に浮かぶ姿がありました。水辺に生える葦を器用に編んで作るパピルス舟は、湖畔に暮らす人びとの生活に欠かせない存在です。小舟の主は漁師のようでした。バランスを上手にとりながらすっくと立ち上がり、長い櫓で水面をパシャパシャと叩きながら魚をおびき寄せています。湖にはまだ他の舟影はなく、櫓で水面を叩く音だけが辺りに響き渡りました。

しばらくすると、湖面にさざ波が立ち、同時に湖の向こうからスッと風が吹きこんできました。一筋の風が櫓を揺らす漁師とバルコニーに立つ私を繋ぎ、まるでひとつの風景の中に入りこんでゆくような不思議な心地に。風が止むと、漁師は、慣れた手つきで網を引き揚げ、ゆっくりと私の視界から遠ざかってゆきました。


陽が昇ると、一気に気温が上がり、少し歩いただけでも汗ばんできます。そんな昼下がりは、風通しのよいプールサイドで、ビールを飲みながら読書に耽るに限ります。
鳥のさえずり、風に揺れる木々の騒めき、唸るようなボートのエンジン音・・・生き物の息吹を感じるBGMは、無機質な静寂よりも落ち着きます。


陽射しが一層強くなった頃、BGMにバシャンバシャンと誰かが水に飛び込むような音が加わりました。耳を凝らして、音のする方向に目を向けると、湖面にせり出すように伸びた木の枝にぶら下がり、勢いよく湖に飛び込む少年たちを発見。いかに遠くまでジャンプできるかを競いあっているようです。素朴な遊びに興じるマンガチックな風景がおもしろく、少年たちが飛びこむ度、光が反射してキラキラと輝く湖面がきれいで、ビールのグラスが空になるまで飽きることなく眺めていました。

彼らにとっての日常も旅人の私にとっては非日常。名所旧跡を訪ねるよりも鮮明に記憶に残る旅のヒトコマになりました。


タナ湖からブルーナイルをしばらく下っていくと、ティシサット滝が現れます。午後の強い陽射しの下、しばらく歩いて滝の対岸にある東屋でひと休み。小屋の主人が伝統的な淹れ方で焙煎したコーヒーを振舞ってくれました。


東屋には、老婆と主人、そして主人の子と思われる小さな女の子がいて、一家が暮らすお宅に招き入れられたようなムードです。老婆は一言も発さず、主人の口数は少ない。少女を手招きすると小屋の端まで走って逃げてしまいました。エチオピアはシャイな人が多いのです。それでも気になるのか少女は、遠くからこちらを見つめてきます。微笑みかけると、自分の背丈と同じくらい大きなポリタンクを渾身の力で持ち上げ、コップに水を注ぎ、おとなのような仕草で飲み干して、自慢気に見つめ返してきました。決して笑わないし、媚びも売らない。それでも、無言のコミュニケーションが成り立つから不思議です。



陽が傾き、吹く風もこころなしか冷たくなってきました。そろそろ店じまいの時間がやってきたようです。

母なるナイルを訪ねる旅で出会ったのは、木陰を通り抜ける軽く爽やかな風と、陽に照らされてキラキラと輝く水面、透明な水に空の色が映り込んだブルーでした。そんな美しい瞬間を閉じ込めたのがandu ametのNile Breezeというカラーなのです。


(スタッフ純子)