「ぶれない哲学」を守るために、変わり続ける。

村上龍さんが亡くなられたというニュースを聞いて、2014年に出演させていただいた「カンブリア宮殿」の、村上さんとのスタジオ対談の映像を久々に見返してみました。

andu ametを立ち上げて、まだ2年足らず。エチオピアの素晴らしい羊革を使って、これまでにないラグジュアリーブランドをつくりたい。そんな夢を抱いて、たった一人で走り回っていた頃でした。

番組では、世界的なラグジュアリーブランドが、どのようにしてその価値を築き上げてきたのか、という話になり、村上さんは、50年、100年と続くブランドには、時代が変わっても守り続ける哲学がある、と話されました。

「そういうのにならなきゃいけないですよね」
そう語りかけられ、私は「そうですね、そういうふうにしたい」と答えています。

12年後の今、このやり取りを見返しながら、あの頃の私はずいぶん簡単に、ずいぶん堂々と頷いていたものだな、と苦笑してしまいました。


実は、この番組が放送された当時はエチオピア人のビジネスパートナーと事業をしていたのですが、放送直後に彼女の不正が発覚。話し合いでは解決ができず、袂を分かつことになりました。

外国人が現地で会社を設立するために必要だった20万ドル(当時のレートで2000万円)をかき集め、一人で現地法人を設立。それまで育ててきた職人たちは法律上、元のビジネスパートナーの会社に所属していたため、新たに職人を雇い、ゼロから育成にあたりましたが、もちろんそんなすぐに高品質なものが作れるようにはならないので、販売を1年以上完全にストップ。テレビ出演をきっかけに注目が集まり、ようやく売上が伸び始めていた時期でしたが、一から事業をつくり直したのでした。

その後も試練の連続でした。エチオピアには、世界に誇れる素晴らしい革がありますが、教育制度や投資環境は十分とはいえません。職人に一つひとつ技術を教えるのも大変だし、慢性的な外貨不足で、革以外の材料やファスナー、金具といった副資材を調達するにも何ヶ月もかかります。

販売も同じ。伊勢丹新宿店や阪急うめだ本店など、日本を代表する一流の百貨店で販売できるようになったことは、大きな前進でした。しかし、販売手数料や旅費、人件費などを差し引くと、思うように利益が残らない。一方で、一般的な商業施設やセレクトショップでは価格帯が合わず、販路を広げることも一筋縄ではいきませんでした。

それでも高品質で、それに見合う価格のブランドにすることは絶対に諦めたくなかった。

たとえフェアトレードや社会貢献を掲げていても、低価格で大量に売ることを前提とすれば、次々と新しい商品を買ってもらわなければビジネスが成り立たなくなる。それでは結局、大量生産・大量消費の仕組みから抜け出せません。そうではなく、長く愛用できる価値あるものをつくり、適正な価格で、適正な数量を販売する。そして、その利益をつくり手にもきちんと還元する。

品質も、働く人たちや環境への配慮も、ビジネスとしての成功も、どれか一つを諦めるのではなく、すべてを実現したい。それが、創業時からのゆずれない思いであり、andu ametとしての哲学だったからです。


andu ametは今も小さな会社ですが、2023年には、社会や環境への取り組みを評価する国際認証「B Corp」を取得。創業当時は年間2〜300個ほどだったバッグの生産も、この数年はエチオピアの現地法人が、バッグ・レザーファッション製品の輸出額で国内4位に入るなど、社会的な面でも売り上げでも少しずつ成長をしてきました。

12年の試行錯誤の末に分かったのは、ぶれないというのは、同じやり方に固執することではなく、本当に大切なものを守るために、それ以外のことは思い切って変えていかなければならないんだってこと。

12年前、村上さんに「そういうブランドにならなきゃいけないですよね」と言われ、迷わず頷いた私でしたが、あの頃よりは、少しだけ、その言葉の重みがわかるようになった気がします。

村上龍さん、ありがとうございました。


2014年1月9日放送
テレビ東京『カンブリア宮殿』
「ものづくり若武者スペシャル ~造り方を変えろ!世界を変えろ!~」

番組公式ページ