「残りの人生も砂糖水を売ることに費やしたいか。それとも世界を変えるチャンスが欲しいか。」ースティーブ・ジョブス
2002年、私がJICAボランティアとして配属されていたEthiopian Tourist Trading EnterpriseのDesign Section には、日本の支援で購入された古いMacがあった。
おそらく当時にしてはかなり高価なものだったと思うが、カギのかかった部屋にあって、埃をかぶっていた。イラストレーターとかフォトショップとか、他にも色々入っていたけれど(2.0とかそんなやつ。もちろん全部正規のパッケージ)、援助あるあるで、誰も使い方を知らなくて、製図はすべて手書きで一つでも訂正があれば一からすべて書き直し。
「せっかくいいマシンがあるのだから、それを有効利用させよう。」
私のエチオピアでの仕事は、スタッフにMacの使い方を教えるところからはじまった。
2002 アディスアベバの職場
起動の仕方、線の描き方、コピー&ペースト。はじめてみると、それは意外と難しい仕事だった。
色の塗り方を教えようと思ったら、それ以前の問題として、<オレンジはマゼンタとイエローを混ぜればできる>という恐らく日本人なら専門家ではなくてもたいてい想像がつくようなことが、エチオピア人にとっては難しかったのだ。教えていたのは、エチオピアで最高の大学を卒業した建築家たちで、彼らは英語も数学も優秀だったが、子供の頃に絵の具やクレヨンで自由にお絵描きをした経験がないのだ。
それでも、もともとのモチベーションの高さも手伝い、何人かの人は簡単な製図くらいならできるようになった。
とはいえ、その後もMacを配属先以外で目にすることはほとんどなかった。エチオピアでもICT4Dが注目されてはじめた時期と重なっていたこともあり、学校や企業などでWindowsはそれなりに見かけるようになっていたが、Macは、販売店はもとより、修理してくれるところもほとんどなかった。
ところが、昨年、6年ぶりにエチオピアを訪れると、広告産業が急成長中で、デザイン事務所や広告代理店にMacが何台も導入されていて驚いた。エチオピアで唯一アートコースがあるアディスアベバ大学にも、10台近いiMacがあって学生達がなにやら作業をしていた。
「エチオピアでMacってまだ珍しいしメンテナンスも大変でしょ、どうしてMacなの?」
と講師の一人に尋ねたら「やっぱりクリエイティブに携わる人間はクリエイティブな道具が必要でしょ」と。そうか、エチオピアでもそんな風に思われているんだ、となんだか感慨深かった。
かくいう私も、かれこれ15年以上に渡るMacユーザーだ。
途中でWinに乗り換えようかと思ったこともあったけれど、ベージュ、ボンダイブルー、ホワイト、シルバー、イロイロイロと色を変えながら、結局今この瞬間もMacを使って書いている。
昔は互換性が低くて、winに変えたらアプリケーションも買い替えなきゃいけないのが嫌だったとか、友達もMacユーザーがほとんどだったからなんとなくとかという程度の理由なのだけど、無意識の中に、ヒリヒリするほどイノベイティブであることを追求し続けた、Appleへの共感や敬意があったと思う。
2003 アディスアベバの自宅
私もそんなふうに強く共感されるような世界観を作っていきたい。
ただファッショナブルなだけのブランドではなく、本当に世界を変えてしまうような、そんなブランドを作りたい。今、改めてそう思う。
RIP S
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