エチオピアの戦争と、見えない傷あと

エチオピアは、2020年から約2年間、内戦状態にありました。北部ティグライ州を中心に、政府軍とティグライ人民解放戦線(TPLF)の間で激しい武力衝突が続き、数多くの尊い命が失われました。

(撮影:フィンバー・オライリー/ニューヨーク・タイムズ)

首都アディスアベバにあった私たちの工房は、幸い戦火に巻き込まれることはなく、従業員が戦地に赴くこともありませんでした。とはいえ、戦争の影響は遠い話ではありませんでした。

たとえば、スタッフのタマスゲンの弟は、TPLFに強制的に徴兵され戦地に送られました。戦争が終わって帰還した時には、深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えており、ひとりでは食事や排泄もできないほどの状態に。タマスゲンは仕事の合間に弟の世話をするためにたびたび休暇を取り、家族と共に支え続けていました。

一方、別のスタッフ、ティグストの夫は、政府軍に加わりました。幼い頃に両親をTPLFに殺されたため、自ら志願したのです。ティグストは、2年間幼い子どもを育てながら夫の帰還を信じて待ち続けました。そしてようやく帰ってきた夫は、やはり精神をひどく病んでおり、彼女は「夫の療養費を払うために、もっと仕事がほしい。どんなことでもやるから」と涙ながらに訴えてきました。

私たちは戦時中も工房の運営を止めることなく、事業を継続しましたが、決して平坦な道のりではありませんでした。外貨が軍事費に優先され、産業資材の輸入が滞り、革の調達が極めて困難に。加えて深刻なインフレと新型コロナウイルスの影響も重なり、スタッフの雇用を守り抜くのは容易なことではありませんでした。

戦争は誰にとっても苦しみをもたらします。戦場にいた人も、遠く離れていた人も、それぞれのかたちで傷を負いながら生きています。戦争が終わったからといって、すべてが元どおりになるわけではありません。残された傷は、長く人々の暮らしの中に影を落とし続けます。

それでもこの国では、人びとが小さな営みを重ねながら、壊れた日常を立て直し、未来へ進もうとしています。その姿に時々心を打たれます。

争いではなく、こうした穏やかな日常の営みこそが、この土地に、そして世界に、静かに積み重なっていくことを願っています。