コーヒーのないコーヒー店

現地の友人に誘われ、7年ぶりにブンナベットに訪れた。

ブンナベットとは、エチオピアのことばでコーヒーの店という意味だが、行ってもそこにコーヒーはない。あるのはお酒と女だけ。売春バーのことなのだ。

ネオンがまだそれほど一般的ではないこの国で一晩中煌々と灯りをつけ、アップテンポの音楽を響かせているのですぐにわかる。店に入ると男たちの間を、躯の線がはっきりと出るような服を着た女たちがなまめかしく渡り歩きながら、自分をもっとも高値で買ってくれそうな男を物色している。

今でこそ、このアディスアベバの町にもバーやレストランが充実しはじめてきているが私がボランティアとして住んでいた7年前は、町でお酒を飲める場所は限られていて、現地の人たちと飲みに行くというと、必ずブンナベットだった。

客の男どもは珍しそうに遠巻きに私を眺めるだけでめったに声をかけてこないが、むしろ娼婦の子たちはおもしろがって話しかけてくれた。どこから来たの?エチオピアの言葉、どこで覚えたの?何してるの?ひとしきり質問攻めにあったあと、必ず言われるのが「兄弟いる?私をお嫁さんにしてくれない?一番目の奥さんがいるなら2番目でもいいから。私、うまくやれる自信あるよ!」

”コーヒーショップ”にもランクがあるが、場末の店で働く娼婦たちが、毎晩何人もの客を取っても、得られる稼ぎは驚くほど少ない。それより外人の愛人にでもなるほうが手っ取り早いと知っているのだ。はじめの内は言葉に詰まっていた私だったが、彼女たちのあっけらかんとした笑顔に引き込まれて、話に花が咲く。ファッションや好きなタイプの男性の話になるととまらないのは日本の普通の女の子と一緒だ。

それでも羽振りのよさそうな男が店内に入ってくれば急にプロの顔つきに変わり、私は思い出させられる。そう、彼女たちは気晴らしにここへ来ているわけじゃない、生きるために来ているのだと。